人口や経済など、社会における資源や活動が東京に集中した「東京一極集中」。人口過密による弊害や災害時の被害拡大などのリスクがあるため、政府や各自治体では東京一極集中を是正する取り組みを実施しています。
近年では、新型コロナウイルスの感染拡大やICTの発展・普及なども影響し、東京からの転出者は増加傾向にあります。では、転出者たちはどの地域に移動しているのでしょうか?
本記事では、東京一極集中について詳しく解説しながら、転出者たちが移動した先とその土地の魅力を紹介します。「このまま東京に住み続けてもよいのか?」と迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
東京一極集中とは?懸念される問題点を解説
そもそも「一極集中」とは、特定の地域に人口や経済など、社会における資源や活動が集中している状況のことをいいます。日本において、首都である東京都が一極集中の状態となっているため、東京一極集中といわれているのです。
ここでは、現状と問題点を押さえておきましょう。詳しく解説するので、参考にしてみてください。
東京に人口・経済・政治すべてが集中しすぎの現状
2020年10月時点の東京の人口は1,404万人。日本の総人口は1億2,614万人のため、約10%の人が東京に住んでいることになります。
経済においては、日本の上場企業にあたる3,800社のうち半数以上の2,029社がが東京に本社を置いています(2021年1月時点)。
政治に関しても例外ではありません。国会議事堂や中央省庁など、多くの行政機関が東京にあります。人口・経済・政治、いずれにおいても東京に集中し過ぎているのが現状です。
参考:総務省|人口推計
参考:会社四季報オンライン編集部|47都道府県別「上場会社の本社数」リスト最新版
東京一極集中が進むとどうなる?懸念される問題点
東京一極集中が緩和されず、このまま進めば、次のような問題が懸念されます。
- 人口過密によるさまざまな弊害
- 災害時の被害拡大
- 地方の衰退
例えば、東京で人口が増えすぎると、慢性的な通勤ラッシュや交通渋滞が起こります。人口が多すぎることで交通インフラが追いつかなくなるので、どこへ行くにも大変な思いをするでしょう。車やバス、タクシーなどの交通量が増えれば、排気ガスによって空気が汚れ、人体に悪影響を及ぼす恐れもあります。
また、東京で大規模な災害が発生した場合、被害は相当なものとなるでしょう。人的被害や建物被害、さらには多くの企業で経済活動ができなくなるので、経済的な損失も深刻です。
万が一、災害対策を主導するべき行政機関が被害を受けてしまえば、対応に遅れが出てしまい、二次被害や三次被害へと拡大する可能性もあります。
政府や自治体では、東京一極集中を是正する取り組みを実施しています。どのような取り組みなのか、続いてチェックしてみましょう。
東京一極集中の緩和に向けた国・自治体の取り組み
国や自治体が実施する、東京一極集中の緩和を図るための取り組みは主に以下の3つです。
- 政府関係機関の地方移転
- 地方への移住・起業を応援
- 移住支援政策
取り組みの内容や特徴について詳しく解説します。
政府関係機関の地方移転
東京一極集中を緩和したい政府は、東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)を除く道府県に対し、誘致提案を募集しました。2015年3月、7つの政府関係機関に対して8つの道府県から移転提案が出され、その先駆けとして2023年3月中に文化庁を京都府に移転する取り組みが実施されたのです。
これに伴い、文化庁に勤める職員の約7割が京都へ移り、残りの3割の職員は国会対応や法案策定手続きなどを行うため、東京に残るとのことです。文化庁以外の中央省庁においては、以下の道府県が名乗り出ています。
- 消費者庁→徳島県
- 特許庁→大阪府・長野県
- 観光庁→北海道・兵庫県
- 気象庁→三重県
- 中小企業庁→大阪府
- 総務省統計局→和歌山県
地方への移住・起業を応援
地方創生の取り組みとして、地方での起業や東京圏からUIJターンにより起業または就業する方を支援金でサポートする政策があります。地方に移住して社会的事業を起こした場合、最大300万円(単身の場合は最大260万円)が支援されるのです。
支援金の対象になるのは、提示されている条件に該当する方のみですが、東京圏から地方に移住するきっかけになりやすいので、東京での暮らしを見直したい方にとって前向きな検討材料となるでしょう。
各自治体が独自でおこなう移住支援政策
東京一極集中は地方にも影響を及ぼします。進学や就職をきっかけに地方から東京に行く若者は多いですが、地方に戻ってくる若者はそう多くありません。東京の人口は増え続け、地方では少子高齢化が深刻さを増してしまいます。若者が少ない地方は活力がなく、徐々に衰退していくことが懸念されているのです。
そこで、各自治体では独自の移住支援政策を行うことで、地域活性化につなげています。例えば、鳥取市では東京圏から移住した人を対象に50万円(単身の場合は30万円)の移住支援金を交付。また、長野県宮田村では「子育てファミリー転入奨励金事業」として、9歳以下の子どもをもつ家庭に対し、1世帯あたり30万円を助成しています。
ほかにも、独自の移住支援政策を行う自治体は多くあります。政策の内容から、移住先を決めるのも1つの方法です。
参考:鳥取市|鳥取市移住支援金
参考:宮田村|子育て世帯を応援!「輝く子育て応援金」
コロナ禍が与えた東京一極集中への影響
コロナ禍により、東京への転入者や転出者に大きな変化が見られるようになりました。東京一極集中にどのような影響を与えたのか、詳しく見てみましょう。
2020年以降は転入超過数が縮小
これまで東京は、転入超過(転入者が、転出者を上回っている状態)でした。しかし、2020〜21年においては、2年連続で転入超過数が縮小。東京23区においては、2014 年以降初めての転出超過(転出者が、転入者を上回っている状態)となったのです。
ちなみに、2014年は外国人を含む集計を開始した時期であり、日本人だけで見ると1996年以来25年ぶりの転出超過となりました。
参考:総務省|東京都特別区部の転出超過の状況 〜住⺠基本台帳⼈⼝移動報告 2021 年の結果から〜
東京23区では転入者が減り、転出者が増えた
東京23区の転入・転出状況を見ると、転入者は2020年に大幅に減少し、2021年においても減少は継続していることがわかります。一方、転出者に目を向けてみると、2015年以降7年連続で増加。2020〜21年においては、大きく増加しています。
参考:総務省|東京都特別区部の転出超過の状況 〜住⺠基本台帳⼈⼝移動報告 2021 年の結果から〜
東京からの転出者が移動した先は?街の魅力とともに紹介
では、東京から転出した方たちはどこに移動したのでしょう?総務省がまとめた「東京都特別区部の転出超過の状況」によると、東京在住の方が、移動後の住所地に選んだ上位10市町村は以下のとおりです。
- 1位 茅ヶ崎市
- 2位 藤沢市
- 3位 上尾市
- 4位 国立市
- 5位 日野市
- 6位 町田市
- 7位 流山市
- 8位 千葉市
- 9位 草加市
- 10位 つくば市
このうち、とくにおすすめのエリアを、街の魅力とともに紹介します。ぜひ、チェックしてみてください。
参考:総務省|東京都特別区部の転出超過の状況 〜住⺠基本台帳⼈⼝移動報告 2021 年の結果から〜
神奈川県茅ヶ崎市|家賃が東京都のほぼ半額とリーズナブル
茅ヶ崎市は、2021年における東京23区の転出者数が、前年増減率44.0%となっています。続く藤沢市が21.5%なので、いかに茅ヶ崎市に移動する人が多いのかがうかがえるでしょう。
海や山に囲まれた茅ヶ崎市は自然が多く、サーフィンやキャンプなどさまざまなアクティビティを楽しむのにぴったりなエリアです。そんな茅ヶ崎市は家賃が比較的安く、物件によっては東京都のほぼ半額で借りられます。
お部屋物件探しサイト「suumo」によると、家賃相場は2LDKの間取りで東京が24.5万円に対し、茅ヶ崎市は8.0万円といわれています。家賃は毎月支払うものなので、安いほど魅力的に感じるでしょう。
参考:suumo|JR東海道本線(神奈川県)の家賃相場・賃料相場情報を探す
神奈川県藤沢市|歴史や自然に恵まれた街
茅ヶ崎市に隣接する神奈川県藤沢市は、美しい自然が残る江の島をはじめ、稚児ケ淵や海食洞窟「江の島岩屋」など、自然に恵まれた街です。また、寺社や遺跡などの貴重な文化財も多く残っており、歴史に触れながら過ごせます。
さらに、藤沢市内には、源頼朝や源義経、北条時政にゆかりのある寺社や史跡が点在しており、歴史めぐりをするのにもぴったりです。2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のゆかりの地としても有名で、移住すれば歴史ロマン溢れる街並みをいつでも探索できます。
埼玉県上尾市|農ある暮らしを実現できる
公園や牧場など、緑豊かなスポットが点在している上尾市は、農ある暮らしが実現しやすいエリアです。体験農園や市民農園があるので、自宅に畑を作るスペースがない方や、農業を初めて体験する方なども気軽に始められます。月に1回開催される「あげお朝市」では、地元の野菜が販売され、地域住民の方たちと交流するきっかけにもなるでしょう。
また、市内にある「上尾駅」からは、東京駅・新宿駅へは乗り換えなしで移動できます。都内への通勤通学もしやすいので、職場や学校を変えたくない方にとっても選択しやすいエリアといえるでしょう。
千葉県流山市|都心までは20分!通勤・通学にも便利
つくばエクスプレスの開業により、流山市は都心へのアクセスが飛躍的に向上しました。南流山駅から秋葉原駅までは最短20分。通勤ピーク時には1時間あたり25本ほど運行しているので、利便性の高さも魅力です。
また、魅力は交通の便のよさだけではありません。流山市は生活圏内に緑が溢れており、日々の暮らしの中で季節の移り変わりを感じられます。市内には公園や森が300ヶ所以上あり、子どもにとってはのびのびと過ごしやすく、年配の方にとってはおだやかな暮らしを実現できるでしょう。
埼玉県草加市|日光街道の宿場町として発展した風情ある街
江戸時代には、日光街道の宿場町として栄えてきた草加市。今もなお、歴史が感じられる風情ある街です。600本もの松並木や瓦屋根の建物など、歴史が息づいており、近代的な雰囲気とは違った魅力をもちます。
また、東京に隣接している上に、交通網が充実しているので、都心への移動も楽です。駅周辺には商業施設が集まっており、家族でショッピングを楽しむのにも適しています。不便すぎないちょうどいい田舎暮らしを実現したい方におすすめです。
東京都に住み続ける?地方移住のメリット3選
地方移住には、主に以下3つのメリットがあります。
- 待機児童問題が少ない
- 人混みが少ない
- 自然豊かな環境で過ごせる
暮らしを今よりも豊かにできる可能性が広がるので、東京在住の方は参考にしてみてください。
待機児童問題が少ない
地方は都心に比べると子どもの数が少ないので、基本的には待機児童問題に悩まされることはありません。「子どもの預け先がなくて職場復帰できない!」といった問題も、地方なら起きにくいでしょう。
出産を控えている家族や、ゆくゆくは子どもを育てたいと考えている家族にとって、待機児童問題が少ないのは魅力的なポイントです。
人混みが少ない
地方は東京よりも人口が少ないため、満員電車とは無縁の生活を送れます。また、面積が広い土地へ移り住めば、人口密度が低くなるので、悠々自適な暮らしが可能になるでしょう。
人混みが少ない環境のなかで過ごせば、心に余裕が生まれ、豊かな暮らしを送りやすくなります。
自然豊かな環境で過ごせる
地方の魅力といえば、自然の豊かさは外せません。山や川、海などが近いエリアは、アクティビティが趣味な人にとって、移動時間を減らせるので、より多くの時間を趣味にあてられます。充実した日々を過ごせるでしょう。
また、自然との距離が近くなるので、四季の移り変わりを楽しめます。子育て世帯にとっては、子どもに自然と触れ合うきっかけをたくさん作れるので、のびのびと育てられるでしょう。
東京一極集中を緩和するために、地方移住を検討してみよう!
東京一極集中によって、人口・経済・政治が東京に集まると、さまざまな問題につながる恐れがあります。身近な問題としては、通勤ラッシュや交通渋滞、排気ガスによる大気汚染での体調不良などが挙げられます。
近年では、ICTの発達・普及により多様な働き方が可能な時代です。テレワークや在宅勤務が可能ならば、地方移住を検討してみるのも1つの方法です。移住支援政策を行う自治体もあるので、気になるエリアがある場合は、移住担当者に話を聞いてみるとよいでしょう。