農業をはじめるには、自分で開業する「新規就農」と従業員として働く「雇用就農」があります。どちらにせよ就農するのであれば、農業に適した土地での暮らしが必須です。移住も視野に入れている人にとっては、「後悔しないのか?」「自分にできるのか?」と不安を抱くこともあるでしょう。
そこで本記事では、移住してから後悔しないよう、農業の大変なところや実態を紹介しながら、失敗を防ぐコツを解説します。就農支援制度やお役立ち情報サイトも紹介するので、あわせてチェックしてみてください。
しっかり調べて役立つ情報を収集できれば、移住後の暮らしや農業での失敗を防げます。
移住先で農業(就農)する2つの方法
移住先で農業をはじめる場合、主に以下2つの方法があります。
- 自分で開業する(新規就農)
- 従業員として働く(雇用就農)
自分はどちらが合っているのか判断できるよう、それぞれチェックしておきましょう。
自分で開業する(新規就農)
新規就農とは、自分自身で農業を一からはじめるスタイルのことです。農地を探すところからはじまり、土地を耕作地に変える、作物の選定、販路開拓などすべて自分で行わなければいけません。
雇用されるスタイルとは異なり、働き方は自分で決められる分、融通が効きやすいところはメリットです。ただし、初期投資がかかることや、経営が安定するまで時間がかかりやすいところはデメリットといえます。
従業員として働く(雇用就農)
雇用就農とは、農業を営む法人に雇われて働くスタイルのことです。働きながら農業に関する知識やノウハウを身につけられます。未経験者もはじめやすく、将来的に独立を考えている人にもぴったりです。
また、初期投資や準備の必要がないので、リスクが少ないところも雇用就農のメリットの1つ。ただし、自分のやりたい農業、理想の働き方を実現するのは難しく、新規就農に比べると自由度は低いといえます。
農業は稼げる?平均収入と農業の種類
農業を職にするなら、どのくらい稼げるのか気になりますよね。また初期投資にいくらかかるのか知っておかないと、最初のうちにつまづく恐れもあります。
後悔しないためにも、しっかり押さえておきましょう。
農業の種類は4種類
農業には主に、以下4種類があります。
- 耕種農業
- 畜産農業
- 農業サービス業
- 園芸サービス業
どれが自分に適しているのか判断できるよう、それぞれの特徴を解説します。
耕種農業
田畑を耕して農作物を育てる農業です。野菜や果物、米、豆類などが対象となります。畑で育てる畑作や田んぼで米を育てる稲作、ビニールハウスで育てる施設栽培など、栽培内容もさまざまです。
畜産農業
牛や豚、鶏などの動物を育てる農業です。肉や乳、卵などを出荷して収入を得ます。また、養蜂や養蚕、ペット用の飼育なども畜産業の一種です。
乳と卵は通年で出荷できますが、肉類は出荷できるまで育てるのに時間がかかります。病気や出産などもあるので、かかりつけの獣医師も必要になるでしょう。
農業サービス業
穀物や野菜などの作物を、栽培から出荷するまでの作業を一部請け負う仕事です。作物の選別を行う農産物出荷組合、苗を育てる育苗センター、人工授精を行う施設などのことをいいます。
園芸サービス業
庭園や花壇などの手入れを請け負う仕事です。造園業や植木業、樹木医といった業種のことをいいます。
初期投資にはいくらかかる?
全国新規就農相談センターが行った「令和3年度 新規就農者の就農実態調査」によると、初期投資は平均755万円であることが分かっています。内訳は機械・施設などへの費用が561万円、種苗・肥料・燃料などの必要経費が194万円です。
就農支援制度を活用すると交付金が支給されるので、全額を負担することはほとんどありません。就農実態調査でも、自己資金は281万円とされています。
ただし、初期投資を準備する際は、当面の間は無収入になることが予想されるので、生活費の準備も必要です。新規就農者の就農実態調査によると、生活面での自己資金は170万円とされているので、就農するときの初期投資は500万円ほどになるでしょう。
農業の平均収入
農林水産省が出している「令和元年 農業経営体の経営収支」によると、農業の全体的な平均所得は118.8万円(農業粗収益が925.3万円-農業経営費が806.5万円)とされています。ちなみに、個人経営の場合は113.6万円、法人経営の場合は287.7万円です。
これに対し、給与所得者の平均給与は433万円であることから、農業の収入は比較的低いことが分かります。ただし、ブロイラー養鶏経営や養豚経営、酪農経営の年間所得は1,000万円を超えているので、農業の種類によって収入に大きな差があることも分かります。
参考:令和元年 農業経営体の経営収支
参考:令和2年分民間給与実態統計調査結果について
農業が大変な理由
農業が大変と言われるのには、主に以下3つの理由があるからです。
- 天候に左右される
- 収入が不安定
- 体力的にきつい
農業は自然相手の仕事なので、天候や気温、災害などの影響を受けやすいものです。場合によっては、収穫間近に全滅してしまうこともあるでしょう。知識やスキルが足りないと、仕上がりにも差が出ます。
また、天候は収穫量にも影響を及ぼすので、収入が不安定になりやすいものです。農業をはじめてから安定するまで苦労しますが、たとえ安定したとしても、その年によっては大きく下がることもあります。
加えて、体力的にきつい点も挙げられます。重いものを運んだり中腰で作業したり、さらに炎天下の中で作業することもあるでしょう。体力に自信がない人や高齢者には大変な作業です。農業未経験者にとっては「思っていた以上にきつい」と感じる場面が多々あるかもしれません。
農業未経験なら「農業インターンシップ」で就農できる
農業は天候に左右されやすいので、経験とスキルが不足していると失敗する可能性が高くなります。そのため、農業未経験の人は「農業インターンシップ」を利用して、経験を積むところからはじめるのがよいでしょう。
農業インターンシップとは、農家さんのもとで短期就業体験できる制度のことです。実際に現場を経験できるので、知識やスキルが身につきやすいうえに、同時に大変なことも経験できます。
また、作業内容は幅広いので、どの農業にしようか決め兼ねている人にもおすすめです。農業をはじめてから後悔しないためにも、就農体験しておきましょう。
参考:農業インターンシップとは
移住者のための就農支援制度
農業をはじめる際は、初期投資がかかるものです。資金面に不安があり、就農を諦めてしまう人も少なくないでしょう。そこで、農業に興味がある人に知っておいてほしい支援制度を以下4つ紹介します。
- 強い農業・担い手づくり総合支援交付金
- 農業次世代人材投資資金(準備型)
- 農業次世代人材投資資金(経営開始型)
- 青年等就農資金(無利子融資)
資金面に関する負担を減らせるので、ぜひチェックしてみてください。
農業に必要な基盤・機械導入を支援「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」
強い農業・担い手づくりをサポートするための支援制度です。トラクターや田植え機などの農業用機械や、ビニールハウスの整備や農地の改良などを支援してくれます。
事業は「地域担い手育成支援タイプ」と「先進的農業経営確立支援タイプ」の2種類に分けられており、どちらのタイプに該当するかによって、融資残について資金を交付する「融資主体型補助事業」の助成金上限額が異なります。
農業用機械や施設の導入を検討している人は、チェックしておきたい支援制度です。
就農する前の研修をサポート「農業次世代人材投資資金(準備型)」
次世代を担う農業者を目指す人を対象とした支援制度です。資金を交付することで、就農前の研修をサポートしてくれます。
主な要件には、就農予定時の年齢が49歳以下であること、1年以上の研修をうけることなどがあります。5つある要件をすべてクリアすると、年間150万円(最長2年間)の資金が交付される制度です。
就農経営を最長5年間サポート「農業次世代人材投資資金(経営開始型)」
新規就農の経営確立を支援する資金を交付する支援制度です。交付金額は経営開始1~3年目は150万円、経営開始4~5年目は120万円となっています。
支援を受けられる条件は、独立・新規就農する人の年齢が49歳以下であること、前年の世帯全体(親子及び配偶者の範囲)の所得が原則600万円以下であることなど、4つの要件すべてをクリアすることです。
独立を考えている人なら、チェックしておきたい制度です。
無利子で資金調達できる「青年等就農資金(無利子融資)」
新規就農者を対象に、農業用機械や施設の導入にかかる資金を長期間、無利子で貸付できる支援制度です。限度額は3700万円(特任限度額1億円)で、実質無担保・無保証人での利用が可能です。
申し込み希望書は農林水産省の公式HPから取得できますが、要件などの確認が必要になるので、都道府県(普及指導センター)や市町村、日本政策金融公庫に相談しておくようにしましょう。
移住と農業を叶えたい人におすすめ!お役立ち情報サイト
最後に、移住と農業を叶えたい人におすすめの情報サイトを紹介します。知りたい情報が得られやすいので、ぜひ参考にしてみてください。
農業をはじめる.jp
農林水産省の補助事業として、(一社)全国農業会議所が運営するポータルサイトです。「就農ってなんだろう?」という基本的なところから、体験や求人、支援など就農したい人が知りたい情報が集約されています。
また、サイト内にある「就農適性診断」では、就農に対する適正や不足している知識・経験などを知ることができます。「農業には興味あるけれど、就農して暮らしていけるのか不安…」という人は一度診断してみるとよいでしょう。
参考:農業をはじめる.jp
ニッポン移住・交流ナビ
(一社)移住・交流推進機構が運営するポータルサイトで、各自治体や企業から寄せられる、空き家や仕事などのさまざまな最新情報を掲載しています。「就農するために移住を検討しているけれど、移住先の見つけ方が分からない…」という人におすすめです。
サイト内では、各市町村の魅力や特徴も詳しく紹介されているので、移住後の暮らしがイメージしやすくなっています。就農に適している土地かどうかも判断しやすいので、移住先選びに悩んでいる人は参考にしてみてください。
参考:ニッポン移住・交流ナビ
マイナビ農業
就職活動の情報サイトであるマイナビが運営するサイトです。農業に必要なスキルとは何か?農家になるには?など、就農をより具体化しやすい情報が満載です。
また、エリア情報では各産地の特徴が見られるので、移住先を検討中の人にとっても有益な情報が得られやすくなっています。就農と移住を叶えている人が描いたマンガも読めるので、楽しく情報収集ができるでしょう。
参考:マイナビ農業
移住先で農業を始めるなら支援制度を活用しよう!
農業ができる環境を整えるためには、農業用機械や施設の導入、場合によっては自然豊かな土地への移住も必要になります。初期投資は莫大になりやすいので、諦めてしまう人も少なくないはずです。少しでも負担を減らすために、支援制度を活用するのがおすすめです。
政府は農業における人手不足を解消するために、次世代を担う農業者を増やす政策として、いくつかの就農支援制度を実施しています。資金面の不安を軽減できるので、移住と就農を実現しやすくなっています。
農業に興味がある人や農業所得で生計を立てたい人は、支援制度をうまく活用し、移住と就農を実現しましょう。