登山やハイキングが趣味な人にとって、山の近くでの生活は憧れを抱くものでしょう。しかし、実際に暮らすとなると、困ることはないのか気になりますよね。
そこで今回は、後悔しないためにも、山近くに移住するメリット・デメリットを解説します。山の近くに住むことで起こり得る問題点を、しっかり押さえておきましょう。また最後に、山好きにおすすめの移住先も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
山の近くに住むメリット
まずは、山の近くに住むメリットから押さえておきましょう。メリットは主に、下記の4つあります。
- 空気と水がおいしい
- 土地が安い・広い
- すぐにハイキングや登山ができる
- 四季の変化を身近に味わえる
メリットが多ければ移住したことに後悔することはないでしょう。それぞれ詳しく解説するので、参考にしてみてください。
空気がきれい
山の近くは、空気が澄んでとてもきれいです。都市部や人口の多い街では、工場や自動車から出る排気ガスが大気汚染物質となり、空気を汚しています。都会ほど、「空気が汚い」といわれる理由は、大気汚染物質が空気中を漂っているからです。
その点、山の近くは人口密度が低いこともあり、大気汚染物質の量は少なくなっています。さらに、木は自分自身を守るため、葉っぱから揮発性(液体がもつ、常温で蒸発しやすい性質)の成分を放出し、二酸化窒素を寄せ付けないようにしています。
このように、山の近くは空気を汚す原因が少ない上に、空気を浄化する特性もあるので、常にきれいな状態が保たれているのです。
土地が安い・広い
山の近くは過疎化が進んでいることもあり、空き家や更地が多い傾向にあります。需要も少ないので、土地は安く手に入りやすいです。
地価調査で比較してみると、東京都八王子市は約110,000〜260,000(円/㎡)に対し、岐阜県高山市は3,200〜89,600(円/㎡)と、大きな差があることが分かります。交通の便がよく、お店や病院など施設も充実している街ほど、土地は高くなります。山の近くは不便なこともありますが、それもまた魅力の一つだとポジティブに捉えれば、土地の安さは大きなメリットといえるはずです。
また山の近くの土地は、安いだけでなく広さも十分に確保できます。100坪以上で売り出している物件が多いので、畑やバーベキュースペースを作りたい人にもおすすめです。
参考:国土交通省地価公示・都道府県地価調査「東京都八王子市」
参考:国土交通省地価公示・都道府県地価調査「岐阜県高山市」
すぐにハイキングや登山ができる
ハイキングや登山が趣味の人にとって、すぐに山へ行ける距離は、最大のメリットといえるでしょう。山に行くまでの移動時間やコストを抑えられるので、山から離れた場所に住んでいるときよりも、手軽に楽しめるようになります。
また「山の天気は変わりやすい」というように、天候は崩れやすいものです。朝は晴れていても、昼には雨が降ることも珍しくありません。もし登山中に天候が崩れたとしても、「また来週登りに来ればいい」と割り切れるので、悔しい思いをすることもないでしょう。
四季の変化を身近に味わえる
木々に囲まれた山の近くは、四季をダイレクトに楽しめるところも魅力の一つです。花を咲かせたり、紅葉したりと季節が変わるごとにさまざまな姿を見せてくれます。
また山の近くには、田んぼや畑が広がっているところも多くあります。景色はもちろん、収穫できる農産物からも、四季の変化を感じ取れるでしょう。
他にも、鳥や虫の鳴き声、空気のにおいなど、山の近くには四季の変化を感じる場面がいくつもあります。
山の近くに住むデメリット
移住するなら、住む際のデメリットも押さえておくべきです。主なデメリットは、3つあります。
- 夏は虫が多く、場所によっては獣害も
- 標高が高いため冬は寒い
- 移動するのに時間がかかる
移住してから後悔しないためにも、それぞれしっかり把握しておきましょう。
夏は虫が多く、場所によっては獣害も
山の近くは自然が豊かなので、虫が多くいます。蛾やクモ、見たことのない虫が家の中に入ってくることもあるでしょう。また虫が多い場所には、虫を餌とするカエルやヘビも多くいます。これらと共存する覚悟がないまま移住してしまうと、後悔する可能性は大いにあります。
さらに、場所にもよりますが、畑で農作物を作っていれば、害獣被害を受けることもあるかもしれません。せっかく育てた野菜や果物が、鹿やイノシシ、猿などに食い荒らされないよう、害獣対策も必要となります。
標高が高いため冬は寒い
山の近くは標高が高いので、平地に比べると、冬は寒くなります。寒いのが苦手な人にとって、冬の暮らしは厳しいものとなるでしょう。また生活面では、暖房費が高くなったり水道が凍結したりとさまざまな面で苦労するかもしれません。
さらに、雪が降る地域での暮らしになると、山の近くは積雪量も多く、場所によっては一夜で1m以上積もることもあります。雪かきや屋根の雪下ろしなど、身体的な負担は大きいものです。年配の人や体力に自信がない人は、九州や沖縄など、雪が降らない・積雪量が少ない地域に絞って移住先を検討することをおすすめします。
どこに行くにも距離があるので、生活に車は必須
山の近くでの暮らしは、便利な生活とは程遠くなります。基本的にコンビニやスーパーは近くにないので、買い物するだけで一苦労です。病院や銀行、公共施設など、生活に欠かせない施設がないことも多いので、生活に不便を感じることは多々あるでしょう。
さらに、交通の便もよくありません。地域によっては電車やバスは1~2時間に1本しかないなど、生活に車は必須です。運転免許証を持っていない人、自家用車を保有してない人は、移住するにあたり、その準備も必要です。
山が近い地域では災害対策も必要
がけ崩れ・土石流・地すべりは、いずれも山の近くで起こりやすい現象です。これらの現象は、土砂災害を発生させる原因であり、大規模な災害につながる恐れがあります。平地に住んでいる頃にはあまり馴染みのない現象ですが、山に住む以上は、土砂災害が起きることを想定し、しっかり対策しておくべきです。
記憶に新しいものといえば、令和3年7月3日に発生した「熱海市伊豆山山地区土砂災害」があります。山から住宅地まで土石流が押し寄せ、多くの人的・物的被害をもたらしました。
土砂災害を甘く見ていると、命にかかわる危険すらあります。土砂災害の恐れのある地域(土砂災害警戒区域、または土砂災害危険箇所)に該当していないか、避難場所や避難経路はどこなのか、都道府県や市町村で作成されているハザードマップを必ず確認しておきましょう。
山好きにおすすめの移住先8選
山の近くに住むメリット・デメリットを把握したところで、移住地の候補を絞ってみましょう。今回は、おすすめの移住先を5つ紹介します。
- 岐阜県 高山市
- 東京都 奥多摩町
- 長野県 諏訪郡原村
- 神奈川県 山北町
- 山梨県 大月市
理想の暮らしができそうな移住先はあるのか、ぜひチェックしてみてください。
「岐阜県 高山市」ほどよい田舎で過ごしやすい
岐阜県北部の飛騨地方の中央に位置する高山市は、たくさんの山々に囲まれた市です。北アルプスの最高峰である穂高連峰をはじめ、ハイキングに最適な乗鞍岳や位山、笠ケ岳など、登山上級者から初心者まで楽しめる山が連なっています。
また高山市には、城下町や商家町の古い町並みが残っており、現代風とはまた違った、落ち着きある雰囲気が特徴です。山々に囲まれているといっても、商店街やスーパーマーケットなど、生活に必要なものは市内でそろえられるので、それほど不便に感じることもありません。
ちなみに、大東建託株式会社の調べによると、岐阜県内を対象とした「町の住みここち(自治体)ランキング」で、高山市は「静かさ治安 4位」「自然・観光 1位」「行政サービス 10位」に選ばれています。岐阜県内でも住みやすいところであることは、確かなようです。
参考:「いい部屋ネット 街の住みここちランキング2020<岐阜県版>」「いい部屋ネット 住みたい街ランキング2020<岐阜県版>」同時発表
移住支援制度
高山市で行っている、移住支援制度は下記のとおりです。
- 高山市へU・I・Jターン就職した若者で、賃貸住宅・借家を借りられた場合の家賃に対し補助
- 中心市街地区域内に移住する場合に、住宅の新築・取得・改修に対して補助
- 移住して一戸建ての空家を賃借、または一戸建ての空家を取得・改修する場合に補助
他にも、さまざまな支援制度を実施しています。詳しくは、高山市の公式ホームページをチェックしてみてください。
「東京都 奥多摩町」東京でありながら自然が近い
奥多摩町は、東京都の中で最大の面積を有する市です。面積の大部分を山林が占めており、日帰りで楽しめる御前山や三頭山、大岳山などがあります。さらに、山頂から富士山や奥秩父などの山々を一望できるとして人気の雲取山も、奥多摩町が有する山です。
また奥多摩町は、東京や横浜などへの交通アクセスがよいところも特徴の一つです。東京駅へは直通の電車もあり、2時間強で到着できます。
移住支援制度
奥多摩町で行っている、移住支援制度は下記のとおりです。
- 奥多摩町で住宅購入、リフォームされた方に、補助金を交付
- 奥多摩町に定住を目的とした住宅を新築、増築、改築、購入された方に、資金借入に対する利子補給
- 都内から奥多摩町に移住し、就業又は起業した方に対し、奥多摩町定住促進サポート事業支援金を交付
参考:奥多摩町「定住支援」
「長野県 諏訪郡原村」日本有数の山々に囲まれている
諏訪郡原村には草原が広がっており、雄大な山々に囲まれた土地は、山好きの人たちを魅了するでしょう。東には八ヶ岳連峰、西には諏訪湖、さらに奥には北アルプス連峰や南アルプス甲斐駒ケ岳が広がっています。
夏は避暑地としても人気で、多くの観光客が訪れるスポットでもあります。また村といっても孤立しているわけではなく、スーパーや大型郊外店、総合病院などもあり、住みやすい生活環境が整っています。原村に過ごす上で不便に感じることはあまりないでしょう。
移住支援制度
諏訪郡原村で行っている、移住支援制度は下記のとおりです。
- 原村内の空家を購入する方を対象に、購入費の一部を補助
- 賃貸人が自ら行う、又は賃借人が賃貸人の承諾を得て行う改修工事を対象に、工事費の一部を補助
参考:原村「令和3年4月より 原村空家有効活用促進補助金交付事業が始まります」
「神奈川県 山北町」町域の約90%を自然が占める町
神奈川県の西部に位置する山北町は、面積の約90%を、丹沢大山国定公園と県立自然公園の山岳地帯が占めています。町域の大半に広がる丹沢山地には、大野山や高松山、不老山などが連なり、ハイキングや登山に最適です。
また山北町は、自然に恵まれた環境でありながら、都会へのアクセスがよいところも魅力の一つです。横浜駅へは約80分、東京駅に至っても約107分と、2時間もかからずに到着できます。都会との二拠点生活をしたい人にとっても、おすすめの町です。
移住支援制度
山北町で行っている、移住支援制度は下記のとおりです。
- 町外から転入、または町内で転居(世帯分離等)する若者・中堅世帯が町内で住宅を新築した場合、お祝いとして新築祝い金を交付
- 町内に自己の住宅を取得するために町が指定した金融機関から住宅資金の融資を受けた場合の支払利子の一部を補助
- 空き家の取得・利用を希望する転入者・転居者及び転入者・転居者に賃貸予定の物件所有者に対して、空き家バンクに登録されている物件の修繕に必要な費用を助成
他にも、さまざまな支援制度を実施しています。詳しくは、山北町の公式ホームページをチェックしてみてください。
「山梨県 大月市」首都圏へのアクセス良好
大月市には、登山家に愛される山々がたくさんあります。気軽に楽しめるハイキングから、本格的なトレッキングまで、さまざまな楽しみができるでしょう。中でも、「秀麗富嶽十二景」に選ばれている山々は、山頂から富士山を一望できるとして特に人気が高いです。
また大月市は、首都圏へのアクセスがよいところも特徴です。特急電車の場合は新宿駅まで約1時間、車の場合は中央自動車道経由で約1時間で到着できます。自然に囲まれながらも、都会との距離も近いので、癒しと便利を両立したい人におすすめです。
移住支援制度
大月市で行っている、移住支援制度は下記のとおりです。
- 市外の方が住宅を取得した場合、助成金を交付
- 市内の中古住宅を取得した場合、助成金を交付
- 市内の民間賃貸住宅を利用する市外から転入してきた子育て世帯に対し、家賃の助成金を交付
他にも、さまざまな支援制度を実施しています。詳しくは、大月市の公式ホームページをチェックしてみてください。
参考:大月市「子育て・教育・定住促進等に関する支援施策」
「富山県富山市」立山連峰が近い
北陸地方にある富山県の県庁所在地である富山市は、山と海に面した自然豊かな街です。市内からは晴れた日には、高く美しく連なる立山連峰が見られます。また、富山地方鉄道電鉄富山駅からは、約1時間で立山黒部アルペンルートの富山県側の起点である立山駅に行くことが可能です。北アルプスの自然を楽しみたい方や、登山が趣味の方におすすめです。
詳しくは、富山市について解説した下記記事をご確認ください。
「長野県安曇野市」北アルプスの絶景を楽しめる
長野県中部に位置する安曇野市は、北アルプスの麓に位置する街です。市内からは、美しい標高3,000mを超える北アルプスの山々が見渡せます。また、山から流れ出る綺麗な水が、市内のあちこちで湧き出ています。各家庭の水道水には、綺麗な地下水が用いられているため、気軽に美味しい水が飲めるところも魅力です。
詳しくは、安曇野市について解説した下記記事をご確認ください。
「静岡県富士市」富士山のお膝元
静岡県東部に位置し、富士山の麓に広がる富士市は、天気が良い日には間近に迫る富士山が見られます。市内にある「富士山ビューポイント設置エリア」に行けば、美しい富士山を撮影可能です。また首都圏へのアクセスも良く、東京へは新幹線の停車駅・新富士駅からこだまで約70分でアクセス可能なので、都心に通勤したい方や、出張の機会が多い方におすすめです。
詳しくは、富士市について解説した下記記事をご確認ください。
山好きなら移住はプラスに!山が近い地域で暮らしを楽しもう!
山好きの人にとって、山の近くに住むメリットはどれも魅力的なものばかりです。条件さえ合えば、即決したくなるでしょう。しかし、デメリットや災害リスクがある以上は、慎重にならなくてはいけません。
平地とはまた違った生活環境になることをしっかりと把握し、後悔のない山近くでの暮らしを実現しましょう。